WORKS

重畳のいえ

NAGANO. 05.2024

八ヶ岳高原の麓に広がる長野県原村に建つ住宅である。敷地は1000㎡を超える広大な面積を持ち、樹高15メートルを超えるカラマツに囲まれ、奥には静かな沼が広がる。東京から車で2.5時間という立地は、夏の避暑地として多くの人々が訪れる場所でもあり、クライアントはこの地に魅了され移住を決意した。 敷地の広さを考慮すると、平屋でも十分に住空間は確保できたが、風景の広がりを一方向に限らず、あらゆる角度から体験できるような立体的な空間構成とした。平面的に広がるだけではなく、風景を多層的に感じることができる住まいである。建物の配置は、敷地の間口を利用した約17m、奥行き約4mの細長い形となり、豊かな外部環境を極力残す計画とし、道路側に向かって急勾配の屋根を架けた。この屋根は、傾斜した反対の南側に向かって開く形となり、内部空間が外部の自然に向かって「投げ出される」ように感じる計画である。また、この屋根は、道路側から見ると一見閉鎖的な壁面となり、その先に広がる山林の風景を期待させる。さらに、屋根の一部を持ち上げることで、南側の山林へと繋がる隙間を作っている。この隙間を越えると一瞬で山林に開かれた広がりを感じ、居住者が自然に包まれていく。空間内部は、床の高さをズラすことで、視覚的には一続きの大きな空間を形成しながらも、機能的には緩やかな仕切りが生まれ、視覚的にも機能的にもつながりと独立性が共存する。1階には外部の自然と直接繋がる広々としたリビングを設け、別荘地としての特徴を最大限に活かし、ゲストハウスとしての利用も視野に入れた柔軟な平面計画としている。 構造的には、急勾配の屋根を構造用合板24mmで固めることで、耐震壁として水平力に対応する。また、開口が連続する南側壁面に対し、金物工法を用いて、構造部材に過度な負担がかからないよう配慮し、床レベル設定や開口部の高さ調整を行うことで、構造的な安定性と空間の開放感を両立させている。 寒冷地での建築において、温熱環境は重要な要素であり、テラスなどの外部利用は季節的な制約を受けやすい。しかし、この建築は、多層的な風景体験を通じて、暮らしと自然環境が一体となり、住まい手に自然との深い結びつきを感じさせる住まいを目指した。

設計
建築設計事務所SAI工房 / 斉藤智士
施工
宮坂建設
撮影
山内 紀人
設計期間
2022年12月〜2023年10月
施工期間
2023年10月〜2024年5月
延床面積
114.33㎡