FUKUI. 08.2019
豊かな田園風景が広がり、九頭竜川の堤防に守られている開かれた土地である。現在は住宅も少なく静かな土地だが、福井市が積極的に宅地開発を進めている地域である為、将来的には住宅が立ち並ぶ可能性が高い。広い敷地、豊かな周辺環境でありながらも不確定要素が多い計画地全体を生かす為、住まいと周辺の隙間と抜けを作り出すことを考えた。配置計画は、安定したコの字形の壁を2つ作り、屋根を掛け、内部空間を作り出した。これを交差したり、2つならべたり、ずらしたりしながら住空間と外部空間、抜けと溜まりを設えた。内部では、アイストップを作る事で囲われたような空間としつつ視線の端で横方向に抜けていく為、別空間や外部空間へと繋がる。2面に面した道路からは歩くごとに閉じた面もあれば、内部空間へ連続していくような姿を変化させる建ち方とした。
1.5層の高さを持つコの字ボリュームの構造をサポートする形で高さ4.2mの本棚を階段と共に設けた。十分な本の収蔵力の確保と、家族が立体的に本を手に取りやすくどこでも本を読める空間とした。この数々の本は個人の一部である。本はその人となりを表し、趣味、思想傾向、興味関心までわかってしまう。家族全員の本(個)を住まいの中央に集めた本棚は、家族の個性を互いに共有しながら共に暮らし、時間と共に家族をも繋ぐ存在にもなりえると考えた。この本棚を中心にリビング、キッチン、個室、水周りを配置し、家族の大黒柱のような存在とした。
また、屋根のあるテラス空間を飛び出すような形で配置している。これは周辺環境以外にも変化する住まいの不確定要素を許容する空間としている。現在は奥様の趣味であるコーヒーを販売するスタンドカフェとして活用する予定で、簡易な仕切りを造作している。今後このスペースが永続的にスタンドカフェとして活用されるのか、住宅の一部として活用されるのか、街の一部として活用されるのかは定かではない。しかし、その場面や時間に寄り添った空間として変化しながら住まいと町を繋ぐことは間違いないと思う。町や住み手が様々に変化する要素を否定的に捉えるのではなく、新しい環境、人の変化が住まいをより豊かな空間へと展開していくだろう。