HIROSHIMA. 03.2022
この「KOKAGE」は、広島県呉市を舞台に、老若男女問わず、その人らしい暮らしをおくるための「地域共生社会」を理念とした医療法人を主体とし、社会的障壁を超えて「誰もが気軽に集える交流の仕組み」を持つ新しい地域医療・地域福祉のあり方を提案するプロジェクトである。
その最初となる本計画は、周囲に郵便局や病院などの公益施設が集合する呉市中心市街地に位置し、JR呉駅から徒歩5分という人の流れが比較的多い立地に展開する「医療モール」で、青少年とその家族に心の通った精神治療・自立支援を提供でき、かつ、まちに開いた情報発信機能を備え、様々な休息や交流が促される施設が求められた。
この建築は、呉に根付いた”
通りで交流する独自の文化”から着想し、誰もが自由に出入りできる街路空間を立体的に織り込みながら都市に奥行を生み出している。空間の自由度を高め、自然と居心地の良い場所で脚を休めることのできる「木陰のような」都市的空間の創出を目指している。
出来る限り様々な人の流れを生み出すため、建物前面には十分な「引き(外部空間)」を確保し、通りを敷地内部まで引き込む配置計画とした。さらに、内部は開放的な空間を生み出すために、4枚のスラブをスキップさせながら縦動線でつなぎ、上下に人の流れと滞留を創り出しながら屋上へと導く空間となる。最上段には格子状のスラブが浮き上がり、この立体空間を「木陰」で包み込んでいる。
活動、休憩、待合い、談話など微妙な機能の違いを展開するこの4枚のスラブは、医療施設利用者だけでなく、誰もが自由に使える空間であり、その利用者が立体的に行き来したり、脚を休めたりする様は、まさに呉の街路環境を立体的に纏った建築の様相を表出する。昨今のネット環境の発達や外出自粛の強制などで拍車のかかる身体的なアクティビティの低迷に歯止めをかける環境づくりこそが、これからの「医療」が、単なる治療行為を超えて、人と関わり続ける社会に必要不可欠ではないかと考える。