WORKS

間越のいえ

Nara. 10.2024

計画地は、奈良公園に隣接し、春日原始林に続く高円山を背に、新薬師寺や白毫寺などの古刹が点在する歴史的地域に位置している。南側の前面道路には、車や人、そして鹿の往来が頻繁で あるが、道路越しには春日山の山並みや、本瓦葺きの伝統的な屋根を眺めることができる。 そこで、南側道路に開かれた形で、動的な要素を制御しながらも、奈良の歴史的風景を住まいに取り込むことを目指した住宅を計画した。 まず、鹿や人の活動を視覚的にコントロールしながら、周囲の風景との調和を図るために、塀という要素に着目した。一般的には境界線上に配置されることで閉鎖的な印象を与えがちだが、 本計画では建物の界壁として活用し、外部との緩やかな関係を保ちながらも、内部空間のプライバシーを確保する設計とした。壁の高さは、周囲の風景や内部空間との連続性を考慮して設定し、1階・2階のどちらにおいても、日常のふとした瞬間に奈良の街並みや山並みを感じられる隙間を設けた。また、透過性を操作した外壁を道路側から内側にセットバックさせることで、目線に近い部分は閉鎖的でありながらも、視線の抜けを確保し、全体的に開放感のある建物の印象を つくる。時間帯によっては、ガラス面が春日山の山並みを映し出し、暮らしと道路沿いの風景にも変化をもたらしている。南および東側に配置した外壁には、開口部の自由度を高めるために、柱を910モジュールで連立させ、片持ち”柱”で支持する構造とした。柱の下部や上部を合板で固めることで、屋根の荷重と水平力に対応し、安定性に寄与 している。また、柱の長さを極力短く抑え、水平力に対する剛性を高め、南側道路に 面する外壁の高さを低く抑えた。平屋より少し高く、2F建てよりも低い高さが、奈良の伝統的な街並みに閉鎖感を与えることなく、街並みと一体感を保つ。また、室内側に屋根から吊り下げた棚板や水平梁を用いた緩やかな境界を外壁からセットバックして配置する。ひとつの大屋根で囲われた大空間を緩やかに仕切りながら、多様な居場所を与える。さらに、水回りや2Fへのアクセスなど、段差や天井高さの操作により、曖昧な境界を超えていくような操作をする。これにより、暮らしに彩りを与えるとともに、境界を越えて外部と内部が連続的に繋がる身体的感覚から、精神的にも住空間が奈良の街並みへと連続し、広がっていく姿を想像した。暮らしとしての「間」、景色を切り取る「間」等、間としての重なりが暮らしの中で奈良の風景へと続いていく。小さな住宅という「間」を「越」え、風景や街並みに応答し、調和する存在となることを目指している。

設計
建築設計事務所SAI工房 / 斉藤智士
施工
株式会社 池正
撮影
山内 紀人
設計期間
2023年6月〜2024年1月
施工期間
2024年2月〜2024年10月
延床面積
119.54㎡